ブリスベンで開催されたエルゼビア社主催の電子書籍フォーラム(Elsevier APAC eBooks Forum 2014)に,日本大学の小山憲司先生と参加しました。カレントアウェアネス-Eでも報告させていただきましたが,コメントいただいた点についての補足と感想など。
フォーラムの概要
アジア・オセアニアの大学図書館員や研究者を対象として,2014年6月26日,27日に開催されました。今年で4回目。内容は,オーストラリア/ニュージーランド/カナダ/日本の事例報告,YBP(アグリゲータ)による電子書籍の導入状況,エルゼビア社の電子書籍に関するビジョンや技術の紹介,ディスカッション,クイーンズランド大学図書館ツアーでした。
フォーラムで得られた知見から,小山先生は大学図書館のコレクション構築全体について,私はPDA/DDAとディスカバリーについて,報告させていただきました。
小山憲司. 大学図書館のコレクション構築とデジタル・コンテンツ<報告>. カレントアウェアネス-E. 2014, No. 266, 2014年9月11日.
池内有為. 電子書籍サービスで変わる大学図書館の業務と展望<報告>. カレントアウェアネス-E. 2014, No. 265, 2014年8月28日.
発表について
筑波大学,千葉大学,慶應義塾大学の図書館の皆さまから電子書籍に関する情報をご提供いただきました。お忙しい中,本当にありがとうございました。また,筑波大学のディスカバリーサービス,大学学習資源コンソーシアム(CLR),電子学術書利用実験プロジェクトについても,電子書籍のdiscoverability,popularity,usabilityを向上させる取り組みとしてご紹介させていただきました。
補足
カレントアウェアネス-E No.265感想 – ささくれで言及いただいた点について。
池内さんがどういう理由で呼ばれたのかまでは分からず。。
当サイトの「電子書籍と図書館」を見て,小山先生が誘ってくださいました。自分用のメモに留めず公開してよかった!
貸出回数じゃなくて純粋な貸出者数が知りたいと思ってます。
電子書籍の貸出統計が正確に取れない点については,日本および海外の図書館員の皆さんから指摘がありました。難しいと思いますが,導入や継続のための根拠として有用なデータになりそうです。
他、オタゴ大学では「PDAにおけるリクエストは,人文学分野のものが多い」こと、オタワ大学では「(2012年に行なったDDAの試験導入の)目的は1990年代の予算不足により不充分だった歴史分野のコレクションの補完」だったこと、をメモ。
今回の発表では,STMは定評のあるコレクションの一括購入が中心,人文科学分野はPDA/DDAを中心に,という傾向があるようでした。もちろん,STMのPDA/DDAもあります。
電子書籍については以前から「ちらっと見る」という利用スタイルが指摘されていますが
必要なところだけピックアップして読む,ということでしょうか。だとすると,”48%は電子書籍のホームに,13%は章のページに到達する”点を改善して,各章へのナビゲートやキーワード抽出に力を入れると良いような。電子ジャーナルと電子書籍の利用行動の違いは,私もとても興味深かったです。
また,小山先生の”デジタル・コンテンツの収集を優先することで,相応の手間がかかったり,課題はあったりするものの”という記述についても,
やっぱ手間かかってんだ、もうちょっと具体的に知りたいな、どうしたら減らせますかね
と書かれていました[カレントアウェアネス-E No.266感想]。
たとえば,(1)利用者のサポートが必要であること,(2)プラットフォームやワークフローが多種多様であるため知識や技術の向上が欠かせないこと,(3)統計が不完全で印刷図書よりも利用動向を追うのが難しく時間がかかること,(4)大型契約にまつわる問題,(5)重複チェックなどが挙げられていました。また,電子書籍の永続性や価格の上昇への懸念やフランス語書籍が少ないこと(これはオタワ大学から)などが報告されました。
(1)(2)はフォーマットの統一で改善されそう,(3)もベンダーさんお願いしますという感じでしょうか。(4)の大型契約はコンソーシアムで対応しているようです。
フォーラムでは,もはや「紙か電子か」という議論はなかったのですが,個人的な会話では「紙の方がいいっていう学生もいて,二重予算なのよ」といった話も。これは国によって差がありそうです。
林さん,ご感想ありがとうございました。E1604で書かれていた「ディスカバリーサービスの透明性向上のためになすべきこと」も重要な論点だと思います。導入館が増えているだけに,来年は議論になるかもしれません。
国際交流について
雑感です。
メディアアーティスト/研究者として世界で活躍されている落合陽一さんの,地球人として生きるのに大切な5つのことというブログ記事があります。英語の壁を言い訳にせず世界に出よう,世界の問題を考えて世界中に仲間をつくろう,という刺激的なエントリです。
5つくらい下の次元での話ですが,国際交流楽しいです。メールで質問させていただいたスインバン工科大学のTonyさんは,カレントの記事をGoogle翻訳で読んで下さったそうです。台湾のHao-Renさんとは筑波大学のSummer Schoolで再会。プレゼンの質疑で助けていただきました(!)
ディスカッションでは「図書館員は電子書籍を出版すべき?」というお題が。満場一致で「もちろん!」と。正直,圧倒されました。なお,出版経験を持つ方は,仕事としてではなく寝る時間を削って執筆されたとのこと。ベテランの方が多かったのですが,みなさん熱く,励まされました。
また,司会のMacyさんをはじめ,相手の国の言葉で挨拶している方が大勢いらっしゃいました。嬉しかったので,さっそく真似しています。来日経験がある方も多く,東京・京都・北海道旅行の話(「畳でも眠れるわよ。でも朝食に出る恐ろしいビーンズは無理!」),定番のムラカミ・クロサワに加えて村上龍,よしもとばなな,宮﨑駿の話など。でも後になって,自分は相手の国についてほとんど話せなかったなあと気づきました。
PhDを持っている方が多いので,院生ネタや研究ネタも。
「私達は指導教員をファーストネームで呼ぶけど,日本では苗字+敬称だし,逆らえないんでしょう?」
「確かに苗字と敬称ですけど,私の指導教員は意見が違ってもディスカッションしてくれます」
「えっ,彼は日本人じゃないの?」
「日本人ですよ」
「彼は海外で教育を受けたに違いない!」
「いいえ,日本です(笑)」
なんて会話もありました。
フォーラム自体が暖かく,終始和やかな雰囲気でした。休憩時間や図書館ツアーのバス移動など,交流を持てる時間がたくさん取られていたのですが,発表の順番を最初にしてくださったため,大勢の方に話しかけていただけました。
クイーンズランド大学図書館ツアー
まじめそうにみえますが,終始笑いが絶えないツアーでした。
遠足気分でぞろぞろ・・・。
カウンター周りとか書架とか気になります。
自分がアテンドする側になったとき,同じように楽しく過ごしてもらえるかどうか。今後の課題としたいと思います。
Thanks
お忙しいところ,ご協力を賜りました。改めてお礼申し上げます。
- 筑波大学:加藤様,企画渉外係の皆様
- 千葉大学:竹内先生,大山様
- 慶應義塾大学:田村先生,宮木様
手厚い校正をありがとうございました。
- 国立国会図書館:依田様,調査情報係の皆様
執筆に際しての質問に快く応じていただきました。
- Swinburne University of Technology:Tony Davies様
貴重な機会と楽しい時間をありがとうございました。
- 日本大学:小山先生
- エルゼビア:鈴木様
いつもアドバイスとパッションをいただいています。
- 逸村先生,逸村研の皆様
お留守番してくれた家族にも。ありがとうございました。