世界の公共図書館における電子書籍サービス状況 | カレントまとめ

14か国の公共図書館による電子書籍サービスについて,カレントアウェアネスの記事をまとめました。「海外の図書館って電子書籍をリーダーごと貸してるの?」と訊かれて答えられなかったのが発端です。既に変わっている部分もあるかと思いますが,ここ2,3年のスナップショットとしてお読みいただければ幸いです。

取り上げた国は(当然のことながら)サービス実施率が高く,日本…12館(0.37%)…と悲しくなりましたが,後発組は良いとこ取りでサービスがはじめられるのかな,とも。今後に期待しています。


論点

調べていて面白かった点,チェックした点です。

運営・運用

  • 貸出回数,貸出期間,印刷などの制限
  • 電子書籍端末(リーダー)を貸出しているかどうか
  • コンテンツを図書館が所蔵しているか,ベンダーが所有している(クラウドにある)か
  • 国レベルでの取り組みと地方の公共図書館による取り組み
  • ILLやコンソーシアムなど図書館間協力の可能性
  • 図書館・出版社・ベンダーの契約と協同実験

価格

  • サービスが有料か無料か
  • コンテンツ自体が有料か無料か(パブリックドメインの資料,自館資料など)
  • 著作権者への支払い,公共貸与権(公貸権)
  • 市場価格と図書館価格,印刷図書と電子書籍それぞれの価格の違い

技術

  • デバイス(PC,リーダー,携帯端末など)によるコンテンツの閲覧可否
  • 図書館で電子書籍を貸出するためのソフトウェアやシステム,デバイス
  • 貸出履歴情報とプライバシー

各項目の末尾にカレントの記事番号や日付とリンクを付けました。オーストラリアの事例2件のみ,自分で検索した内容です。

米国

  • Pew Research Centerの調査によると,この1年間に公共図書館から電子書籍を借りた利用者は,米国民の12%(16歳以上)であり,62%の人は公共図書館で電子書籍を借りられることを知らない。読みたい本をダウンロードした電子書籍端末を貸出してほしい(46%),電子書籍のダウンロード方法を教えてほしい(32%)といった要望があった。(2012/6/22)[E1317]

  • Library Journal誌の2011年の調査によると,電子書籍を提供している公共図書館は82%(大学は95%)。平均提供タイトル数は4,350(前年比184%)。85%が電子書籍リーダーで読む。[E1233]

  • コロラド州ダグラス郡図書館による2012年9月5日付, 10月31日付[2016/9/2リンク切れ]の印刷図書・電子書籍の価格比較表。AmazonやBarnes & Norbleなどの消費者向けと図書館向けの価格を表にまとめている。[CA-R: 2012/11/1]

  • 「ダグラス郡モデル」:購入した電子書籍のファイルを図書館サーバで管理することを目指し,コロラド独立系出版社協会やGale社などと契約を結んでいる。同時アクセス数制限や図書館を通じた販売促進を提案する代わりに,ファイル取得や販売価格の引き下げを取り付けている。2013年5月からマサチューセッツ州ほか公共・大学・学校・専門図書館が実証実験を行う予定。[E1363]

  • コネティカット州図書館の諮問委員会が州レベルでの相互貸借を模索し,州規模でのコレクション構築について考察。(2012/10/16)[CA-R: 2012/10/17 ]

  • 3M社の電子書籍貸出サービス“3M Cloud Library”の提供開始。ミネソタ州のセントポール図書館が導入(OverDriveも導入済み)。キオスク端末や3Mの電子書籍リーダー,PC,Mac,iPad,Nook,Android等で閲覧可能。(2012/4/25)[CA-R: 2012/4/26]
    • ほぼ全ての端末で利用可能?

  • ニューヨーク州クイーンズ図書館で電子書籍リーダーの貸出を行うパイロットプログラム開始。ベストセラー,ロマンス,ミステリー,ティーンズ,こども向けのいずれかが予め登載されたNook50台が準備されている。期間は7日間(無料)で,2回まで延長可能。(2012/4/12)[CA-R: 2012/4/13]

  • フロリダ州の国際空港が公共図書館と提携して利用客に電子書籍を提供。QRコードでパブリックドメインの作品34,000タイトルが利用可能。利用期限なし,カード不要。(2011/11/8)[CA-R: 2011/11/10]
 

カナダ

  • 公共図書館向けの電子書籍市場は未発達,特にフランス語の書籍が少ない。公貸権の導入についても検討中。(2011/6) [CA-R: 2011/8/15]
 

英国

  • 図書館・情報専門家協会(CILIP)が,政府に「電子書籍の貸出を無料化すべき」,「館外からのアクセスを可能に」といった提言を行った。会長のコメントによれば,英国の2/3の公共図書館が電子書籍の貸出を実施している。(2012/11/17)[CA-R: 2012/11/20]

  • 2010年に「デジタル経済法」(Digital Economy Act 2010)が制定され,公貸権制度の対象が電子書籍とオーディオブックにまで拡張された(以前は印刷図書のみが対象)。(2011/9/20)[CA1754]

  • Reading Sightが公共図書館における電子書籍のサービス状況とアクセシビリティに関する調査レポートを発表。未導入館の理由は,導入・維持コスト。(2011/8/26)[CA-R: 2011/9/12]

  • ロンドン公共図書館コンソーシアム“London Libraries Consortium(12館,全体の1/3)”が,電子書籍の提供サービスを開始。(2010/3/24)[CA-R: 2010/3/25]
 

アイルランド

  • 10州の公共図書館(全体の約1/3)がOverDriveによる電子書籍サービスを開始。(2012/6/12)[CA-R: 2012/6/13]
 

スペイン

  • スペイン文化省が,公共図書館に電子書籍および電子書籍端末の貸出サービスの支援を行うと発表。パブリックドメインの資料をダウンロードした電子書籍端末を,15の公共図書館に50台ずつ配布する。(2011/1/12)[CA-R: 2011/1/17]
 

ポルトガル

  • 国立図書館が電子書籍の出版事業を開始。PC,iPad,iPhone,アンドロイド携帯で利用可能。販売のほか,一律1ユーロで貸出も行なっている。(2012/1/25)[CA-R: 2012/1/26]
 

オランダ

  • 2012年2月17日,王立図書館が電子書籍の貸出を開始。180,000点以上の電子書籍を1週間利用可能。10,000点の電子ジャーナルも提供している。 [CA-R: 2012/2/22]
 

デンマーク

  • 2011年11月からeReolenとよばれる電子書籍貸出サービス開始。53出版社の1,800タイトルが対象で,開始から約1ヶ月で6,000人,9,600回の利用。貸出のたびに図書館が出版社に使用料を支払う(新刊は18.5クローネ,1年以上経過した本は15クローネ)。貸出期間や冊数は各館が決定。画面に「試す」「借りる」「買う」ボタンがあり,利用者が購入した場合は,利益を図書館と出版社に均等に分配する。図書館による販売については,出版社から反対意見もあり。(2011/11/28)[CA-R: 2011/11/29]
 

スウェーデン

  • 王立図書館は,電子書籍のダウンロード数が印刷書籍の貸出利用数を上回ったと発表。2008年の統計によると,電子書籍のダウンロードが420万件で,印刷書籍の貸出冊数320万冊を上回る(ただし,国内の研究図書館等を含む)。また,資料購入費の72%はデータベース,電子ジャーナル,電子書籍などの電子リソースに使われた。(2010/2/18)[CA-R: 2010/2/19]
 

オーストラリア

  • 大規模な公共図書館がない南部のクラーゲンフルトで,QRコードを利用してパブリックドメインの電子書籍を無料でダウンロードできる “Project Ingeborg”開始。発案者はジャーナリストとソフトウェア開発者。(2012/7/10)[CA-R: 2012/8/10]
    • 公共図書館の事例でも図書館発のプロジェクトでもありませんが,電子書籍による公共図書館の補完という着想が面白かったので。

  • キャンベラ州立図書館によるサイトLibraries ACTでは,住民・通勤者は無料登録の上,Digital Media Homeから電子書籍やオーディオブックを借りることができる。OverDrive社のシステムで,新着タイトルや最近返却されたタイトルのサムネイルが並んでいる。Graphic Novels & Comics(マンガ)もあり。
    • マンガはアメコミがほとんどですが,人気順(Most Popular)でソートしてみたところ,2,3,4位が日本人著者のイラスト付き(マンガ付き?)ハーレクイン作品でした(2012/12/27)。

  • クイーンズランド州立図書館のサイトでは,One Searchで電子書籍を検索して,5分以上閲覧・印刷・コピーしたい場合は1日または1週間の貸出手続きをすると,スマートフォンや電子書籍リーダーにダウンロードできる。ただし印刷は20%まで,コピー&ペーストは5%まで
    • この2項目だけカレントの記事ではなく,直接検索しました。
 

ニュージーランド

  • グーテンベルクプロジェクトによって電子化されたパブリックドメインの電子書籍約24,000点を公共図書館で貸出。OverDrive社の「バーチャル分館」を通じてEPUB形式で提供され,貸出期限や制限はなし。[CA-R: 2011/11/4]
 

韓国

  • 2009年7月にサムスンが電子書籍用の携帯端末を販売開始した他,オンライン書店イエス24とアラジンが共同開発,別のオンライン書店や携帯電話会社も電子書籍サービスを検討している(2009年12月)。[CA1701]

  • 国立中央図書館が所蔵資料をデジタル化。民間業者の電子書籍も購入し,著作権契約を締結した公共図書館にもサービスしている。公共図書館では指定された端末で全文を閲覧できる(大学図書館,行政資料室では利用できない)。[CA1701]
 

台湾

  • 国家図書館は電子出版物の網羅的収集と恒久的な保存,電子出版物へのISBN付与,利用者サービスの3つの機能を持つ電子出版物プラットフォーム「數位出版品平台系統」(E-Publication Platform System:以下、EPS)を構築し,2011年8月23日にサービス開始。[CA1759]

  • 出版者が納本するタイトルにかけられる制限は,利用期間,提供範囲,同時閲覧人数,閲覧範囲,印刷範囲。館外貸出可能な資料は,Web経由でEPSにアクセスして閲覧可能(日本からでも可能)。貸出冊数は最大3冊で,期間は10日間。返却手続きはオンラインで可能だが,期間が終わると自動的に返却される。[CA1759]
 

シンガポール

  • 国立図書館員会(NLB)による新たなサービスとして,ベドク公共図書館で電子書籍端末の貸出を始める。iPad100台,TumbleBooks Playway100台,Kindle5台が用意されており,2週間貸出可能。iPadからはNLBの電子リソースにアクセスして220万点の電子書籍,140のデータベースを利用できる。iPadの貸出に際しては,1時間程度のワークショップへの参加が求められている。(2012/6/21)[CA-R: 2012/6/22]
 


いち利用者としては,デンマークの“貸出のたびに図書館が出版社に使用料を支払う(新刊の方が割高),画面に「試す」「借りる」「買う」ボタンがある”という方式が合理的だと思いました。さすが元祖・公貸権の国。
 図書館で借りて面白かった本は後日購入しますが,入手出来ない場合もありますし,検索などの手間をかけることなく買えればたいへん助かります。最近,音楽は同じような流れで購入していて,公式PVをYouTubeなどで観る→気に入る→iTunesリンクがあれば迷わず購入,です。便利。(後になると忘れてしまったり,どうでも良くなってしまったり)(音楽も本も,評判買い,アーティスト買いで失敗したことは数知れず…)

台湾の,“出版者が利用期間,提供範囲,同時閲覧人数,閲覧範囲,印刷範囲などの制限を設定できる”というのもいいと思います。印刷図書の場合「出版後半年は貸出さないで欲しい」といった個別の希望に対応するのは大変ですが,電子書籍ならば仕組みさえ作ってしまえば簡単なので。

まだまだ電子書籍に手が出ない・出せない人が多い中,図書館が積極的にサービスを展開すれば,電子書籍の普及と「電子書籍で読む」習慣づけに一役買えると思います。パブリックドメインの資料を貸出している事例が多数ありましたが,青空文庫収録作品は公共図書館の蔵書と,かなり重なるのではないでしょうか(貸出回数も調べられるといいのに)。

利用者にとっても著作者・出版社にとってもプラスになるような電子書籍サービスに今後も注目していきたいです。

 


追記 [2012/12/28]

ITmedia eBook USER「一味違うスウェーデンの電子書籍貸出モデル」(2012/12/27)より

スウェーデンの図書館は普遍的な『ライセンス契約』モデルを利用しておらず、利用者は一度に好きなだけ電子書籍を借りることができる。一方、図書館は出版社に対し、貸出ごとに支払いを行う。(略)ストックホルム市立図書館は現在、出版社と協力して、図書館が出版社の既刊書の電子化に協力する代わりに有利な貸出条件を結ぶ二重ライセンス契約モデルのパイロットプロジェクトを行おうとしている。パイロットプロジェクトで、図書館は25冊の書籍電子化に対する支払いを行い、それらの書籍は11年間有効な固定価格により図書館が利用できる。出版社は、同様に、すべての電子書籍新刊をリリース時に図書館が入手することに同意する。(強調筆者)

あわせて英国の公貸権に関する記事を追加しました。公貸権については,CA1579「動向レビュー:公共貸与権をめぐる国際動向 / 南亮一」,著作権や公貸権と図書館の電子書籍サービスについては,鳥澤孝之「電子書籍の著作権制度上の課題:出版社と図書館の視点から」パテント. 2011, Vol. 64, No. 7, pp. 57-64.に詳しく解説されています。

 

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