オープンサイエンスによる学術情報流通の変化と大学図書館の研究データ管理:図書館総合展2015

研究データの公開が盛んになり,引用・追跡の仕組みが整いつつあり,データのインパクトを計測するためのメトリクス開発も進んできました。研究者は,こうしたメトリクスやData Citation Indexのようなツールを理解することによって,適切なデータを発見して効率的に研究を進めることができるようになると考えられます。

図書館総合展の発表で,例として挙げた辻慶太先生のラーニングコモンズに関する論文は,小山憲司先生の文献の調査データと『日本の図書館』の統計データを用いた分析を行っています。データの再利用によって,以下のような利点が生まれます。

  • 辻先生:調査コストを削減できる
  • 小山先生:文献が引用される
  • 大学図書館:似たような調査に再度回答しなくて良い
  • 図書館情報学界:短期間で新たな知見が得られる

こちらの例ではデータを文献から引用していましたが,リポジトリに公開されたデータならば,より簡単に再利用できます。従って,次のような取り組みが重要だと考えられます。

  • 研究者:適切なデータを見つけて効率的に研究を進める
  • 図書館:研究者にDBやリポジトリのガイダンスを行う
  • リポジトリ管理者:データのビジビリティを向上させる
  • 学術情報政策:研究データ共有に投資して研究者の生産性を向上させる

 

発表スライド

逸村裕先生との共同発表でした。以下は池内発表分です。

 

緊張したので五郎丸ポースなどしてみたところ,中央大学の梅澤貴典様もトムソン・ロイター社の鳴島弘樹様も続いてくださいました(ありがとうございます)。

 

発表で紹介した数値情報のソース

*いずれも2015年11月現在

流通している研究データの量は,論文に比べるとまだ少ないものの今後増大するでしょう。莫大なデータの中から有用なデータを見つけるツールの開発や,データの発見可能性の向上は喫緊の課題です。

 

データ引用とメトリクスの取り組み

FORCE11
Joint Declaration of Data Citation Principles

FORCE11によるデータ引用原則の共同声明で,この原則に準拠して引用文献を記載するよう求めるリポジトリや学術雑誌が増えています。2015年11月現在,学術機関,出版社,リポジトリ,イニシアティブなど100機関,および244名が賛同しています。2014年のIDCCで紹介され,その場で署名しました(懐かしい…)。こちらから署名できます→[Endorse the Data Citation Principles

Making Data Count
Making Data Count

カリフォルニアデジタルライブラリー+PLOS+DataONEによるデータのためのメトリクス開発プロジェクトです。PLOSのArticle-Level MetricsやDataONEのデータを活用しており,2015年秋にはツールが公開される見込みとのことです(楽しみ)。

casrai
Data Level Metrics [2016/4/20 リンク切れ]

CasraiのDavid Baker氏,CERNのSunje Dallmeier-Tiessen氏,F1000 ResearchのRebecca Lawrence氏を共同議長としたInterest Groupで,出版社,データリポジトリ,研究助成機関,大学に向けたメトリクスの開発に取り組んでいます。オックスフォード大学のe-Research CentreやBioMed Central,Elsevierといった大学や出版社の方も参加しています。

 

データが標準化された方法で引用されていれば,こうしたメトリクスが有効に機能します。出版社やリポジトリ,研究機関,助成機関などのステークホルダーが協力して標準化を進めるとともに,データ引用を啓発することが重要だと思われます。ICMJE勧告のように,多くの雑誌にデータの引用原則が採用されると良いのですが。

また,CasraiのData Level Metricsは,NISOのAltmetricsイニシアティブとも協力しているとのことです。しかし,海外のaltmetricsには,日本で話題になっている論文やデータが充分に反映されないと考えられます。はてなブックマークなど日本独自のSNSも対象に含むCeek.jp Altmetricsに期待したいです。

 

 

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